介護・福祉施設の「経営品質向上プログラム」
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業種
介護福祉施設
- 種別 レポート
現在、介護事業所では、採⽤難、離職の慢性化、サービス品質への不安感、⽣産性圧迫、・・・問題が幾重にも連鎖し、何から着手すればいいのか見当がつかない状況に陥っているケースも少なくない。
株式会社日本経営の坂佑樹(介護福祉コンサルティング 副部長)と、経営品質向上プログラムを用いた組織変革・業績改善で多数の実績があるヒューマンウェア・コンサルティング株式会社の渡辺充彦氏(取締役副社長)に、介護・福祉事業所の経営を改善する「経営品質向上プログラム」について尋ねた。
介護・福祉施設が直面している4つの難題
今回は介護・福祉施設の「経営品質向上プログラム(※1)」についてお聞きしたいと思います。その前に、まず介護・福祉施設の現場でいま何が問題となっているのか。専門家としてのご意見をお聞かせください。
(※1 「経営品質向上プログラム」は、卓越した業績を出し続ける企業の取り組みを研究・体系化したもので、世界85カ国以上で導入されている)
坂 「離職と採⽤」が最⼤のテーマです。さらに人の入れ替わりが激しいので、「介護サービスの品質」が伴ってこない。離職・採用の問題と、サービス品質の問題が、裏表の問題としてまず挙げられると思います。
渡辺氏 それは「育てる時間がない」ということも大きく影響しています。それぞれの役割が明確になっていない。自分のことに精一杯で、考え方もやり方も定まっていない。つまり、「組織やマネジメントの問題」があり、「生産性の最適化」が実現していないという問題があります。
うまくいっている事業所とそうでない事業所の根本的な違い
第1に「担い手」の問題、第2に「サービス品質」の問題、第3に「組織やマネジメント」の問題、第4に「生産性」の問題。4つの大きな難題が、それぞれ繋がっているということですが、うまくいっている事業所とそうでない事業所では、根本的に何が違うのでしょうか?
渡辺氏 介護サービス、介護事業は、ケアプランがすべてのスタートです。何が目的なのか、利用者の思い・願いはどこにあるのか。つまり、その人らしい暮らしを継続するためには何が必要で、今現在どこまでできるのか、どの部分は一人では対応できないのか、またその要因は身体機能なのか疾病によるものか、環境によるものか、服薬によるものか、意欲によるものかなどを細かくアセスメントした上で、どこまでを対応することが望ましいのかといったプランを整理する必要があります。
このような中で、家族からの要望だけでプランを作ったり、ケアマネの思い込みや現場の⽅だけの思いで⽀援していると、自ずとバラバラになっていきます。利用者の望む暮らしを「目標」として真ん中に置き、その実現に向けて職員一人ひとりが何ができるかを考えて行動しなければ、職員間で知識や情報が蓄積されず、組織として磨耗していくことになります。
坂 つまり、「一人ひとりで頑張っている」ことが問題の本質なのだと思います。極端な言い方かもしれませんが、一人ひとりで頑張れば頑張るほど、問題が困難になっていくように感じます。
それぞれの職員が思い思いでバラバラに頑張れば頑張るほど、⽣産性はますます落ちていきます。何よりもサービスを受ける利用者にとっても、バラバラのケアを受けて身体的にも精神的にも負担は大きなものになります。
特に介護事業所においては、施設としての「目標」の前に、前の前にいる利用者一人ひとりの「目標」が共有されていないことが多いように感じます。基本的な業務の流れや必要書類の作成など、業務管理を行う管理者は存在しますが、共通目標を共有化して、一人ひとりがバラバラではなく共通の目線で利用者サービスに向き合うようにリードしていく、まさにリーダーの存在は少ないように感じるのです。
共通の目標を伝えるためには、職員間での対話が必要です。対話するためには、お互いの発言を否定せず、その発言の意図・背景を受入れていく。そのような雰囲気や風土がまず必要です。しかし、⼀朝⼀⼣には創られない。ここに、現場をリードするリーダーの葛藤があるのだと思います。
うまくいっている事業所とそうでない事業所の根本的な違いも、ここにあるのだと考えます。
「経営品質」と、専門家に求められるアプローチ
一人ひとりで頑張るのではなく、組織としてのマネジメントの問題、リーダーの存在が不可欠だということは理解できました。介護・福祉の「経営の品質」をレベルアップしていくために、渡辺副社長や私ども日本経営のコンサルタントは、どのようにアプローチしていくのですか?
坂 リーダーと言ったとき、組織にはそれぞれ成熟度があるので、いきなり⾼いレベルを目指しても現場はついて来れません。リーダーが力を発揮できるかできないかは、組織の「経営のレベル・品質」に大きく左右されます。まずは、PDCAをしっかり回す仕組み、組織としての基盤が必要です。
病院などは組織規模も⼤きく、全体を⾒る役割の⼈がいることもあります。しかし、介護事業所では必ずしもそうではない。「一人ひとりで頑張る」組織が多く、部分最適だけの支援では根本的な課題解決に至らない。そのような問題意識をもっていました。
2年前に渡辺副社⻑と出逢いを頂いて以来、組織には成熟度があり、その成熟度に応じて求められる経営品質レベルがあることを知りました。部分最適の機能的支援ではなく、全体最適で経営品質レベルをどのようにステージアップしていくか。このことにご⼀緒に取り組んでいます。
渡辺氏 経営には間違いなく品質があります。専門家と呼ばれる人たちは、様々な手段やプロセスでそのレベルアップを図ってきたわけですが、専門家とそれを必要とする方々との関係は、時代とともに変わってきていると思います。担い手にしても、時間にしても、資源がますます限られていく中で、現在、専門家には「一緒になってどう価値を創っていくのか」ということが求められていると、感じています。
日本経営グループには、財務のプロ、人事のプロ、戦略や計画策定のプロなど、各分野のプロフェッショナルがいらっしゃいます。一方、私たちヒューマンウェア・コンサルティング株式会社は、経営のいまのステージにおいて、どのように全体最適化すればよいか、キャディ的な役割を得意とします。
経営者も幹部も現場の方々も、それぞれの分野の専門家も、皆が一緒にチームになってやっていく。それが、これからの経営のあり方で、新しい価値の生み出し方ではないでしょうか。
簡単には潰れることがない生き残る水準モデル
問題を根本的に解決するための具体論が、「経営品質向上プログラム」だと思いますが、経営は目に見えないものです。その品質をどう評価するのですか。
渡辺氏 「経営品質向上プログラム」は、経営品質協議会が提供しているプログラムです。アセスメント基準書のガイドラインに沿って「組織成熟度」を1000点満点で測定します。350点まで行けば簡単には潰れることはない、生き残る水準モデルとされています。350点はかなりのレベルで、全体の20%ほどと言われています。
最初はPDPDサイクルでしか運営できていなかった組織が、PDCAサイクルを回せるようになり、リーダーシップが機能し始め、学びや氣づきが生まれ始める。問題に対して再発防止策を打ち、戦略が策定され、ビジョンが打ち出され、PDCAサイクルがどんどん高次化されていきます。まずは350モデルを実現することが目標です。それを超えたら、後は早い。
経営の品質と介護の品質「経営品質向上プログラム」
なぜ、「経営の品質」なのですか。「介護の品質」ではないのですか。また、「経営品質向上プログラム」は研究会というスタイルだと聞いています。なぜコンサルティングではないのですか。
渡辺氏 介護の品質は、言い換えれば「そのサービスが利用者にとってふさわしいかどうか」です。しかし、利用者が求めているものを実現するためには、質の高い教育や人材システムが不可欠です。これらは「経営の品質」そのものです。
「経営の品質」は見えないもの、表に出ないものです。現場で見えるのは、「よいサービス」、「介護の品質」です。課題を根本的に解決しようと思えば、見えるものだけでも、見えないものだけでもなく、双方を変えていく必要があります。
坂 また、経営の品質、介護サービスの品質を向上させていこうと思えば、コンサルティングというスタイルは必ずしも「解」ではないという思いを強くしました。したがって、「経営品質向上プログラム」は研究会というスタイルを採っています。渡辺副社長がおっしゃられるように、介護・福祉の経営層の方々も、幹部の方々も、現場の方々も、私たちも、同じ方向を見て、皆が一緒になって実践する。その結果を、自分たちで発表する。
何としてでも実績を出さなければ、参加メンバーの前で発表できないわけです。何より、発表するために、自分たちの行動と実績を振り返って資料にまとめる。ここが一番、学習効果が高まるのです。だから、コンサルティングというスタイルではなく、研究会というスタイルを採用しました。
研究会には各事業所で責任者お一人だけが参加されるのではなく、チームの皆さんが何人も参加され、皆が同じ思いを持って共通認識を持って、一緒に実践していける。そのような機能を、研究会が果たしていけるように努めたいと思います。
実践研究会がスタートし、志ある皆様と共に350モデルが実現されていくことを心待ちにしております。本日は、まことにありがとうございました。
介護・福祉の「卓越した経営」を目指す研究会。
採用難や離職の慢性化を、根本的に解決したい。
サービスの品質向上と生産性向上に取り組みたい。
介護・福祉の経営層、幹部層の方に最適です。